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相続・遺産分割・遺言に関するQ&A

Q:遺産にはどのようなものが含まれますか。
A:土地、家屋、現金、預貯金、家財道具などと言ったプラスの財産だけでなく、マイナスの財産、すなわち債務も含まれます。
Q:遺産に何があるかよく分からないのですが、どうしたらはっきりするのでしょうか。
A:預貯金は金融機関に照会することができます。自分では十分な情報が得られない場合は、弁護士法23条による弁護士会照会等を使用してみてもよいでしょう。不動産は名寄帳等から、株式は配当通知等の通知類から判明することがあります。現金等の動産類については、銀行に貸金庫を借りていなかったか調べるとよいでしょう。
Q:遺産に含まれる不動産や株式の価額はどうしたら分かるのでしょうか。
A:不動産は不動産鑑定士に依頼するのが正確ですが、固定資産税の課税標準価額、路線価、地価公示による公示価額、近隣の取引事例等を参考にして当事者間で合意してもよいでしょう。株式は、@上場株式は証券取引所で公表されている取引価格により、A非上場株式については、業種が類似する会社の上場株式取引価格を基準にして、資産内容、収益配当の状況を考慮して決める方法、会社の純資産額を発行株式数で除して1株あたりの評価額を求める方法があります。
Q:父が亡くなり、母と長男の私が相続しました。相続税を支払わなければならないのでしょうか。
A:相続税は、原則として、相続によって取得した財産のうち経済的価値のあるすべてのものにかかります。課税対象となる相続財産の合計額を課税価格といい、この合計額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合に、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に申告します。相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告し、その期限内に納付しなければなりません。延滞すると、延滞税がかかります。
Q:父が亡くなり、相続人は妻の私と2人の息子です。父は弟さんに300万円貸していたのですが、これはどのように相続されるのでしょうか。
A:金銭その他の可分債権は、相続開始とともに法律上当然分割され、各相続人はその相続分に応じて権利を承継するというのが判例です。質問のケースではあなたが150万円、息子さんたちがそれぞれ75万円の債権を取得し、単独で請求できることになります。しかし、実際は遺産分割により債権の帰属者を決めるまで請求しないのが通常です。
Q:夫と妻の私は2人で夫名義で借りた家に住んでいたのですが、夫が亡くなってしまったので出て行かなければならないのでしょうか。
A:その必要はありません。借家契約は相続により従来の内容のまま相続人に当然に引き継がれます。家主の承諾は不要であり、名義書換料などは支払う必要はありません。借地の場合も同じです。
Q:内縁の夫が借りていた部屋に同居していましたところ、彼が亡くなりました。私は出ていかなければならないのでしょうか。
A:出ていかなくてよいでしょう 。旦那さんに相続人がいない場合はあなたが大家さんに反対の意思表示をしないかぎり、旦那さんの権利義務を承継できます(借地借家法36条)。相続人がいる場合でも、判例上、相続人が相続により取得した借家権を援用し家主に対し居住の継続を主張できます。相続人が賃借権を放棄してもあなたとの関係では無効であり、また相続人からの明渡請求は権利濫用として退けられます。
Q:夫が亡くなり、妻である私が生命保険金を受け取ったのですが、これも相続財産となるのでしょうか。
A:受取人としてあなたが指定されているときは、保険金はあなた固有の権利として取得するので相続財産には含まれません。受取人が「相続人」と指定されている場合も、相続ではなく保険契約によって保険金を受け取るのであるから、相続財産に含まれないとするのが判例です。後述の特別受益にあたるかについては、生命保険も多種にわたり、貯蓄性の強いものから生命保障的要素の強いものまで様々ですので、一概には言えません。裁判例も確立していないところです。これに対し、受取人が亡くなった旦那さん自身となっている場合には保険金は相続財産となります。
Q:夫が亡くなり妻の私と2人の息子が相続することになりました。夫は知人から400万円を借りていたのですが、これは私たちが支払うのでしょうか。
A:可分債務は相続開始と同時に各相続人の相続分に応じて当然に分割承継されます(民法427条、判例)。よって可分債務は遺産分割の対象ならず、相続債権者は1人の相続人に対し全部請求することはできません。質問のケースでは、あなたが200万円、息子さん達がそれぞれ100万円ずつ債務を負うことになります。
Q:父が亡くなり、長男である私が喪主となって葬式を行ないました。とりあえず私が費用を払ったのですが、この分を遺産から出すことはできるのでしょうか。
A:できます。裁判例では、葬式費用は葬式主催者が負担すべきとされていますが、香典は葬式費用の一部を負担することを目的とした贈与と考えられますので、まずこれでまかない、不足分については相続財産に関する費用として相続財産の中から支払われることになります。
Q:夫が亡くなりました。夫には、妻である私のほか、私との間の子が2人、愛人との間の子が1人います(認知はされています)。また夫のお父様とお母様も健在で、義兄もいます。誰が相続できるのでしょうか。
A:あなたと2人のお子さん、愛人との間の子の4人が相続人になります。相続権があるのは、第一に配偶者であり、第二に血族の内@子A直系尊属B兄弟姉妹の順序です。配偶者はつねに血族相続人とともに、いなければ単独で相続人となります。子には養子も含まれます。
Q:前のケースで、各相続人はどれくらいの割合で相続できるのでしょうか。
A:相続分(遺産を承継する割合)は、相続人が@配偶者と子の場合は各2分の1、A配偶者と直系尊属の場合は配偶者が3分の2で直系尊属が3分の1、B配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は配偶者が4分の3で兄弟姉妹が4分の1となります(民法900条)。同じ立場の相続人が数人ある場合はその内で頭割りになります。ただし、子のうち、婚姻外で生まれた子は他の子の2分の1になるとされています。質問のケースでは、相続分は、あなたが2分の1、あなたのお子さんが5分の1ずつ、愛人の子が10分の1です。
Q:長男には借金問題や女性問題で迷惑をかけられっぱなしなので、遺産を渡したくないのですが、できますか?
A:できる場合もあります。家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求します(民法892条)。廃除原因(被相続人に対する虐待または重大な侮辱、その他の著しい非行)があると裁判所に認められると、長男の相続人資格が失われます。廃除原因の有無は、虐待・侮辱・非行の程度、当事者の社会上の地位、家庭の状況、教育制度、被相続人側の責任の有無、その他一切の事情を斟酌して家庭裁判所が決定します。金品の持出しや多額の借金、サラ金の後始末をさせて行方不明になっているケースで廃除を認めた審判例もあります。請求は被相続人であるあなたにしかできません。遺言によって廃除することもできます(同法893条)。もっとも、長男に子供がいれば、その子が相続できる(代襲相続)ので、実際は廃除が使われる場合は少ないようです。
Q:夫が亡くなりましたが、銀行やサラ金に借金があり、サラ金業者から支払を請求されています。とても支払のできる額ではないのですが、どうしたらよいでしょうか。
A:相続放棄(民法938条)ができます。債務は相続開始と同時に各相続人の持分に応じて当然に分割承継されますが、相続放棄をすれば、その相続に関し、初めから相続人でならなかったことになります。相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述して行ないます。また、遺産の範囲内で借金を返す限定承認(同法922条)という方法もあります。共同相続の場合、相続放棄は各相続人が単独でできますが、限定承認は全員が共同で手続を行なわなければなりません。
Q:1年前に夫が亡くなりました。遺産など何もないと思って特に手続きをしていなかったのですが、今になって、貸金業者から借金の返済の請求がきました。私の支払える金額ではありません。どうしたらよいでしょうか。
A:相続開始からすでに3ヶ月が経過していますが、質問のようなケースで相続放棄を認めないのは酷な場合もあるため、判例では、相続開始と自己が相続人になったことを知った時から熟慮期間が進行するのが原則としながら、相続人に相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人が相続財産(債務を含む)が全くないと信じるについて相当な事由があると認められる場合には、例外的に、相続人が相続財産があることを認識したときか通常そのことを知ることができるときから熟慮期間が始まるとされています。質問のケースでも、債権者の通知が遅れたこと、夫婦の間柄、生活状況など考慮して、まだ熟慮期間が経過していないと認められることもあるでしょう。そうすれば相続放棄して債務の支払を拒むことができます。
Q:父が亡くなり、私と妹、弟の3人が相続することになりましたが、妹は結婚のときに、弟は留学費用として、それぞれ100万円を超える額をもらっていました。遺産分割ではこれらが考慮されますか。
A:被相続人から遺贈や生前贈与を受けた特別受益者に対しては、その受けた利益の限度で相続分を差し引き計算する(持戻)よう求めることができます(民法903条)。特別受益となるのは、共同相続人の一部の者が受けた@すべての遺贈とA婚姻・養子縁組のためもしくは生計の資本としてもらった生前贈与です。結婚にかかるお金のうち、持参金・結納金・支度金は、特別受益にあたりますが、結婚式の費用は通常あたりません。教育費は、ご兄弟のなかで弟さんだけが高等教育を受けているような場合には特別受益にあたります。
Q:父は、7年前に脳卒中で倒れて以来寝たきりとなり、長女の私が母を手伝って介護をしていましたが、先日亡くなりました。他の兄弟は遠方に住んでいるため、私一人で介護しました。このような事情は相続では考慮されますか。
A:被相続人の財産の維持・形成に特別の寄与・貢献をした共同相続人は、その法定相続分に寄与に相当する額を加えた財産を相続できます(民法904条の2)。「特別の」寄与には、親族間の扶養義務等法律上の義務の履行としてなされる行為は含まれません。質問のケースでは、お父さんが付添婦も雇うお金がなかったわけではなく、お母さんが大変なのを助けたのであれば、扶養義務と無関係に財産上の貢献をしたといえるでしょう。遺産分割協議の中で、寄与分の主張をするとよいでしょう。
Q:父が亡くなって、遺産があるようなのですが、遺産の分割はどのようにして行なえばよいのでしょうか。
A:通常は共同相続人が一同に会して協議をし、合意の上遺産分割協議書を作成します。持ち回りによることも可能です。合意があれば法定相続分と異なる分割もできます。遺産分割協議書は、合意が成立した証拠資料となり、不動産については登記原因を証する書面となるため作成しておくべきです。
Q:共同相続人の一人である弟は、多額の借金をかかえたまま数年前から音信不通となっているのですが、遺産分割協議はどのようにしたらよいのでしょうか。
A:家庭裁判所に不在者財産管理人の選任(民法25条)を申し立て、その選任された管理人と遺産分割について協議する方法があります。弟さんの生死が7年間以上明らかでない場合には、家庭裁判所に申し立てて失踪宣告(民法30条)の審判をしてもらうと、弟さんは死亡したものと扱われます。この場合弟さんにさらに相続人がいればその人と遺産分割協議をします。遺産分割終了後弟さんの生存が確認された場合には失踪宣告は取り消されることになりますが、他の相続人が弟さんの生存を知らない場合は遺産分割は有効です。
Q:父が亡くなった後、兄から、相続登記のために必要だからと、「相続分のないことの証明書」に判を押すことを求められています。押してしまったら遺産は一切もらえないんでしょうか。
A:もらえなくなることもあります。相続を望むなら署名押印はしないでください。この証明書は、登記実務上、相続登記をするについての原因証書として扱われていますので、この書面を添付して、自己名義に相続登記を行なうよう申請すれば相続登記をすることができます。そこで、共同相続人から単に登記のために必要だからと説明されて、法的意味を考えずに安易に押印してしまい、後日になって紛争に発展する例も少なくありません。裁判例には、このような証明書を本人の意思に基づかないものとして無効としたものもありますが、実質的な遺産分割協議がなされ、その過程で遺産に対する共有持分権の放棄または贈与がなされたとみて、有効としたものもあります。有効とする裁判例のほうが多いようですので、安易に署名押印してはいけません。
Q:共同相続人全員で集まって何度か話したのですが、どうしても話がまとまりません。どうしたらよいでしょうか。
A:相手方の住所地の家庭裁判所に調停の申立てをします。共同相続人のうち誰が申し立ててもよいのですが、全員が当事者となっていなくてはなりません。調停でも合意が成立しないと審判手続に移行し、家事審判官が審理したうえで強制的に分割するということになります。
Q:兄が横浜家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしたのですが、私は遠方に住んでいるため出席するのが大変です。どうしたらよいでしょうか。
A:調停には本人が出頭するのが原則ですが、やむを得ない事情が存する場合には代理人を出頭させることができます。弁護士以外の者を代理人に選任するには家庭裁判所の許可が必要となります。
Q:分割協議でもめているうちに、共同相続人の一人が遺産に属するお金を使ってしまわないか心配なのですが、何かよい方法はありませんか。
A:預貯金は共同相続人全員の同意がないと下せないのが銀行の実務ですので、費消される危険は少ないでしょう。現金の費消を防ぐための手段としては、遺産分割の審判を申し立て、同時に審判前の保全処分の申立てをする方法があります。保全処分には、財産管理者の選任、財産管理に関する指示、仮差押、仮処分その他の必要な保全処分があります。調停を経ずに審判を申し立てても裁判所は職権で調停に回付することが多いのですが、この場合でも保全処分の審判はできます。
Q:父の遺言には、遺産のすべてを慈善団体に寄付する旨書かれていました。息子である私は何ももらえなくなるのでしょうか。
A:配偶者、子、直系尊属には遺留分(法律上留保された相続財産の一部、民法1028条)があります。遺留分の割合は@直系尊属のみが相続人であるときは遺産の3分の1、Aその他の場合には遺産の2分の1であり、相続人が数人いる場合は各相続人の遺留分は法定相続分によって分け合います。そして、遺留分を侵害する贈与又は遺贈がなされたときは、それにより利益を得た者に対し、遺留分減殺請求権を行使し(民法1031条)、既に給付した財産の返還を請求し、まだ給付していない財産に対する請求を拒否できます。この権利は裁判によらなくても行使できます。ただし、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年、相続開始から10年が経過すると時効により消滅してしまう(同1042条)ので注意が必要です。
Q:私の死後、子どもたちの間で相続争いが起こらないように、遺言を書いておきたいのですが、どのように作成したらよいのでしょうか。
A:普通方式の遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります(民法967条)。自筆証書遺言は遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印するだけで作成でき、最も簡単ですが、亡くなった後に相続人間で遺言の有効性をめぐる争いが起きるのを予防するという観点からは、公証人が遺言を保管してくれる公正証書遺言(同法969条)がよいでしょう。公証役場に行って、遺言内容を公証人に申述し、2人以上の証人に確認してもらったうえで、公証人に遺言書を作成、保管してもらいます。内容としては、各相続人の遺留分に配慮した遺言にしておけば、相続をめぐる紛争を予防することができるでしょう。
Q:父が亡くなり、遺品を整理していたら「遺言書」と書かれた封筒が出てきました。封がしてあるのですが開けてしまってよいのでしょうか。
A:開けてはいけません。遺言者の相続開始地(被相続人の住所地)の家庭裁判所に提出して検認の手続をとります(民法1004条)。封のしてある遺言書は、家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会いの下でなければ開封することができません。検認を怠っても遺言の効力に影響はありませんが、5万円以下の過料に処せられます(同法1005条)。
Q:父の遺言には、「土地は息子(私)に相続させる」と書いていました。この遺言だけで私はその土地を自分名義に書きかえることができますか。
A:できます。登記所へ遺言書を持っていき、相続を原因とする所有権移転登記の申請をすれば、あなたは単独で登記することができます。
Q:夫は5年前に家を出て、マンションを買って不倫相手といっしょに住んでいました。最近夫が亡くなり、不倫相手にそのマンションを遺贈する旨の遺言をしていたことが分かりました。マンションは不倫相手にあげなければならないのでしょうか。
A:不倫相手に対する遺贈が反社会性を有し、公序良俗違反で無効(民法90条)となる場合があります。判例には、@遺言者と配偶者の関係・遺言者と愛人の関係、A遺言によって不倫関係が助長強化されたか、B遺言内容と配偶者の生活関係等を斟酌したうえで、遺言が不倫関係を維持継続することを目的とするものではなく、もっぱら遺言者に頼っていた女性の生活を保全するためになされたものと認めて、有効としたものがあります。質問のケースでも、不倫関係が始まった頃にすでに婚姻関係は破綻していたこと、遺言は夫の死亡直前に経済的後始末としてなされたこと、マンションの遺贈は妻子の生活を侵害しないこと等の事情があれば、有効となるでしょう。もっとも、遺贈により遺留分が侵害される場合は、遺留分減殺請求をすることができます。